研究分野: アナログ・ディジタル回路と信号処理システム
研究概略: FPGAを用いることで, ΔΣ変調器の安価な評価システムを実現します.


研究背景と目的/ΔΣ変調器の性能評価

ΔΣ変調器とは, アナログ信号をディジタル信号に変換するA-D変換器の一種です. 詳しくは
ΔΣ変調器は, オーディオなどの信号を高精度に取り扱うシステムに多く用いられます. これらのシステムを試作開発する際には, 搭載するΔΣ変調器の性能を評価するという需要が生じます. ΔΣ変調器は高分解能なA-D変換を行うことが出来るため, ΔΣ変調器の性能を評価するためには変調器の動作上で発生するノイズ以下のノイズフロアを持つ入力信号が必要となります. 従来は, 図1のように高価なアナログ信号源に複数のBPF(Band-Pass Filter)を縦続接続することで低ノイズな入力信号を実現していました. しかしながら, この手法には, 高価な信号源が必要になることによるコストが高いことと, BPFの特性が可変で無いことによる測定条件に融通が利かないという問題がありました. そこで本研究では, 高コストな従来手法に代わって安価で再構成可能な評価手法を提案することで, ΔΣ変調器を組み込んだシステムの試作開発コストを低減することを目指しています.

図1. 従来の入力信号の生成方法

提案手法/FPGAを用いた1bit評価システム

私たちは安価な評価手法として, “1bitテスト信号”を用いた評価システムを提案しています. “1bitテスト信号”は図2の流れで生成されます. まず再構成可能なデバイスであるFPGA(Field Programmable Gate Array)評価ボード上でDDS(Direct Digital Synthesis)手法によって任意の周波数のマルチビット正弦波信号が生成されます. 次にそのマルチビット信号をFPGA上に構成された全ディジタルΔΣ変調器に通すことで1bitのディジタル信号に変換します.
ΔΣ変調器の出力1bit信号は周波数領域において, 高いダイナミックレンジを持つ正弦波信号成分を含んでいるため, 周波数領域で見れば低ノイズな正弦波信号とみなすことが出来ます. そこで, この1bitのディジタル信号を評価対象のΔΣ変調器(DUT)に同期して入力することで, 特定の信号帯域において等価的に性能評価が可能となることを期待します. 実際に評価システムを組み上げた写真を図3に示します.

図2. 提案する入力信号の生成方法
図3. 1bit信号によるΔΣ変調器の評価システムの写真
従来手法のようにアナログの正弦波信号を入力した場合のDUTの出力スペクトルを図4, 提案手法のように1bitディジタル信号を入力した場合の出力スペクトルを図5に示します. ピンク色の帯がついているところが入力した正弦波の信号成分です. これらを比較すると, 信号周波数近傍においては同様の出力が得られており, 本手法が有効であることが確認出来ます.

図4. アナログ正弦波信号を入力した場合の出力スペクトル
図5. 1bitディジタル信号を入力した場合の出力スペクトル

提案手法/1bit信号によるリアルタイム評価システム

本研究ではさらに, WindowsのPCとFPGA評価ボードの間でソケット通信を行うことで, 図6に示すような測定条件を任意に変更可能なリアルタイム評価システムを提案しています. このシステムでは, 図7のWindows側のGUIアプリケーション上から入力信号の条件や, FFT解析のための条件を任意に変更することが可能です. DUT出力の解析結果はアプリケーション上にリアルタイムに表示され, 直感的にDUT性能を評価することが可能です.

図6. 1bit信号によるΔΣ変調器のリアルタイム評価システムのブロック図
図7. WindowsPC上で動作するGUIアプリケーション

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